西王母は、中国のはるか西の果て崑崙山に住むと伝えられる麗しい仙女である。
紀元前十世紀、周の穆王が西方に旅した際に会見したと、歴史書は記している。
西王母のもとには大きな桃の木があって蟠桃と呼ばれる。枝が曲がりくねって伸
び広がり、三千里四方に及んだ。蟠桃の蟠は、蛇がとぐろを巻いている様をいう。
桃の枝振りを蛇になぞらえたのである。
この蟠桃は三千年に一度、花を開き、不老長寿の霊験あらたかな実を結ぶ。
謡曲の 「西王母」では、穆王の前にかの仙女が姿を現して、王の優れた治世をた
たえ、蟠桃の実を捧げる。
穆王にまみえた西王母は、絶世の美女であるが、さらに古い時代には、豹の尾と虎の
牙をもち,長い髪を振り乱した半人半獣の怪神とされていた。
それが時とともに美しい姿に変わってゆくのは、古代中国の人々が西方との交流を次
第に深めていった過程に関わりが有るのだろうか。つまり、無知は恐怖をあおり、知識
は情愛をはぐくむ、という事ではないかと思う
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